
愛好会会員のI氏から大江健三郎氏が芹沢光治良に言及している本を紹介していただきました。
2007年5月発行の『大江健三郎 作家自身を語る』です。新潮社でISBN9784-10-303618-0です。聞き手の尾崎真理子氏が「大江健三郎、106の質問に立ち向かう」でふれています。大江氏は短篇について芹沢作品を高く評価しています。氏が評価する短篇作品とはどういうものでしょうか?大江氏が、1994年3月20日に講演された人性批評家(モラリスト)の文学ー芹沢光治良の生涯の独特さーの講演のなかでは、『ブルジョア』『巴里に死す』『死者との対話』を挙げて話されています。短篇は、『死者との対話』です。大江氏は、「そこにあるのは非常に男らしい、責任を持って生きている、信頼できる知識人という芹沢光治良というひとですね、・・・」と「戦後知識人として新しくなっていかなくてはいけない」という事は「唖の娘に話しかけるように」という事だと話されています。
大江氏は、また、この講演の中で芹沢光治良の短篇にこの様にふれています。「戦争直後の短篇のように今、手に入らないけれども、どのように僕達と同じ時代を見つめて、モラリストとして生きて来られたかということが、よく判る小説を読むことができます。人間の観察の点でも、そして或いは人間の魂、精神についてどう考えるかという点でも、、すなわちモラリストの文学というものが、日本でこの百数十年の近代文学の歴史の中で、芹沢光治良というどのように見事な結実を示しているか」とまとめています。
大江氏の講演録を読んでいて、今の時代こそ、精神、魂を大切にする風潮が失われて来ている中、芹沢光治良が考えるそれらを小説で経験することは大切だと改めて思いました。